夜の科学館:浜松から世界を感じよう

浜松科学館では月に一度(毎週第2金曜日)、高校生以上を対象に「夜の科学館」を開催しています。開館時間を延長し、常設展をご覧いただけることに加え、プラネタリウムやサイエンスショーなど、昼間の科学館とは趣の違う大人の方向けのプログラムを実施しています。今年度の夜の科学館では「大人がワクワクする科学館」を目指して、毎月異なるテーマを設定し、さまざまなコンテンツをご用意しました。本ブログでは、科学館ならではの切り口で毎月のテーマと科学の関わりを紹介します。

5月のテーマ『世界』

海外旅行に出かける方が徐々に増えてきています。皆さんは行ってみたい国、地域はありますか?今月は、科学を通して浜松から世界を感じるプログラムを実施しました。

〇南十字星が見頃!南半球の星空

5月は南十字星が見頃だと言われます。しかし、残念ながら浜松では見ることができません。
その土地の緯度によって、見える星や星座が変わるからです。
昔は「憧れの南十字星」などと言われ、日本では見ることができないイメージがありましたが、実は日本でも緯度が低い石垣島などでは地平線、水平線近くの低い空で南十字星を見ることができます。
ただ、やはり南半球の方が高い位置に南十字星が見えるので、見やすくなります。
今回の夜の科学館では、南極の星空もご紹介しました。
南極にある昭和基地では5月末頃から「極夜」と呼ばれる1日中太陽が昇らない時期が始まります。
地球の地軸が約23.4度傾いて太陽の周りを回っているので、日本の夏(南極では冬)の時期を中心に南極には太陽の光が当たらなくなるため「極夜」となるのです。

一日中夜であるこの時期に南極では「オーロラ」を見るチャンスが増えます。
8月の夜の科学館では「オーロラ」についても解説します。

〇サンゴは結晶でできている!?

「南国」「リゾート」というと、皆さんはどんな国を思い浮かべますか?ハワイやフィリピン、マレーシアなど赤道付近の熱帯の国々を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。きれいな海で、海水浴やダイビングを楽しむ優雅な休日…憧れます。
上記のような島国では、サンゴ礁を見ることができます。

サンゴ礁は、サンゴの他にも様々な生き物が関わりあって暮らしています。
海岸で拾ったサンゴを観察してみると、白くてやや重みがあり、骨のような見た目をしています(図1)。これはサンゴの「骨格」です。さらによく見ると小さな穴がたくさん空いており、生きているサンゴはこの穴からイソギンチャクのような触手を出し、動物プランクトンなどを食べています(図2.3)。サンゴはイソギンチャクやクラゲと同じ刺胞動物と呼ばれるグループに属する動物です。

  • 【図1】サンゴ骨格 
  • 【図2】サンゴ骨格 
  • 【図3】サンゴ骨格の電子顕微鏡画像(35倍)
  • 【図4】サンゴ骨格の電子顕微鏡画像(5000倍)

サンゴの骨格をさらに拡大して観察すると、細かい筋がたくさんあることがわかります(図4)。主成分である炭酸カルシウムが結晶となって規則正しく並ぶため、このように見えます。生物が結晶を作ることをバイオミネラリゼーション(生物鉱化作用)と呼びます。サンゴの成長速度は温度や朝夕によって変化するので、骨格を調べることで、過去の気候変化などを分析することが出来ます。他にも、化石になったサンゴがカナダなど北の国から見つかることがあります。これは、かつてその場所が、暖かく浅い海だったことを示す証拠になります。サンゴを調べることで、世界中の過去の環境がわかるのです。

〇サイエンスショーで世界旅行

サイエンスショーで実施する実験の中でも、ブーメランは人気があります。ブーメランは元々、オーストラリアのアボリジニが狩猟や儀式に使用していたとされています。ブーメランといえば、投げると手元に戻ってくるのがおもしろいところです。では、どうしてブーメランは戻ってくるのでしょうか。
まずは、ブーメランの形です。「くの字型」「3枚羽のプロペラ型」など様々な形があります。ショーで使用しているのは3枚羽根のものです。下の写真を見てください。羽根の形をよく見ると、少し膨らみがあるのがわかるでしょうか。これは、飛行機の翼と同じ形をしています。

図1

翼に膨らみがあると、翼の上下で空気の流れが変わります。空気の流れが変わると、圧力にも差が生まれます。このとき生まれる、圧力の小さな方へ浮き上がろうとする力を揚力と言います。飛行機はこの揚力を利用して飛んでいます。

次に投げ方です。ブーメランは必ず縦に持ち、回転させながら、投げ出します。回転が加わることで、進行方向に向かっている上側の羽根の揚力は大きく、進行方向と逆向きに向かっている下側の揚力は小さくなります。このため、立っていたブーメランは横向きに変わっていきます。

コマを思い出してください。コマは回転していると倒れようとする方向から90度ずれた方向へ力を受けます。このためコマは倒れる代わりに、首ふり運動を行います。これをジャイロ効果と言います。これは、ブーメランが進む方向を変えることと同じ原理です。

ブーメランは、このような科学の力が働いて、手元に帰ってくるのです。
今回は、スローで動画を撮ってみました。

ぜひ、皆さんも挑戦してみてください。

科学の視点から見た「世界」はいかがでしたでしょうか?
このほかにも、フェルトを用いて地球を作るミニワークショップの実施や、ミュージアムショップにてオーロラグラスの販売を行いました。

次回の夜の科学館は、6月9日(金)
テーマは『性:神話と科学で語る性の世界』

ご来館、お待ちしております。

6月の夜の科学館の案内(PDF)

イベント名:夜の科学館
開催日:2023年5月12日(金)毎月第2金曜日
参考資料:
国立極地研究所 https://www.nipr.ac.jp/jare-backnumber/now/back59/20180531.html
地質調査総合センター 地質ニュース632号 29-34頁 2007年4月

造礁性サンゴの骨格構造と化学組成
https://www.gsj.jp/publications/pub/chishitsunews/news2007-04.html
山崎詩郎著 独楽の科学 ブルーバックス(2018)
日本ブーメラン協会 http://www.jba-hp.jp/theory.htm