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表紙の1枚

表紙の1枚(vol.30):欲張りなプラネタリウム

天浜線_軌跡

浜松科学館ニュースレター「COMPASS」。
第30号の表紙は、現在制作が進められているオリジナルプラネタリウム番組「天竜浜名湖鉄道 星空紀行」の撮影風景です。

tenhama_vol30_表紙

番組の公開は 12月26日。
公開に向けて、番組制作者の伊藤さんは、天竜浜名湖鉄道沿線の中でも、車窓からの眺めや星空が印象的に映る場所を選び、撮影を行っています。

天浜線_茶畑
天浜線_三ケ日

伊藤さん「車窓の風景をプラネタリウムドーム全面に投映したら、きっと面白いんじゃないかと思ったんです。天浜線沿線には星がきれいに見える場所もありますし、どこか懐かしさを感じる風景も楽しんでもらえるのではないか、と。」

そんな想いから生まれた本作は、浜松科学館オリジナル番組として2020年に初公開されました。
そして今年、国鉄二俣線全線開通85周年を記念し、演出や構成をあらためて見直した“新バージョン”として制作が進められています。

伊藤さん「天浜線は、街と街の間に広がる田園風景や湖など、自然の中を走る区間が多く、車窓風景にバリエーションがあります。旅情を感じられる路線ですね。特にお気に入りなのは、木々の枝が覆いかぶさるように続く“緑のトンネル”です。」

天浜線_緑のトンネル

撮影場所は、地図や衛星写真を用いて検討し、実際に列車に乗ったり、車で現地を訪れたりしながら、映像として適しているかを確認して決めているそうです。

伊藤さん「一見美しい風景でも、実写映像をプラネタリウムドームできれいに見せるのは、とても難しいんです。大きなドームスクリーンでは映像の粗さが目立ってしまうため、コントラストや彩度の調整を何度も繰り返し、没入感が損なわれないように仕上げています。」

天浜線_修正

360度カメラで撮影した車窓風景をドーム全面に映し出し、風景が頭の後ろまで流れるように進んでいく。
そんな新しい体験を届けたいと語る伊藤さんですが、完成に至るまではさまざまな苦労があるといいます。

伊藤さん「撮影の時はカメラの様子を気にしていました。まず、きれいな映像を撮るには天気が良い日が一番です。しかし、窓に固定したカメラは、直射日光を浴びで熱くなり、途中で電源が落ちてしまいます。これまでの撮影でも何度か落ちたことがありました。ここぞ、という場面で撮影ができるように、前もって電源を切ったり、停車中の開いたドアの近くで冷やしたりしていました。」

天浜線_スタビライザー

撮影後はどのような作業があるのでしょうか?

伊藤さん「プラネタリウムで上映できるように、パソコンでいくつかの処理を行います。ここからは、動画編集者モードに気持ちを切り替えます(笑)。色味の調整や車窓風景の揺れを軽減する効果を加えベースとなる映像を作ったら、駅名や地図などの補助情報を配置して、いわゆる“旅番組“のような形に仕上げていきます。さらにドームスクリーンという、半球状の画面に合わせる処理も行います。編集作業は一般的なパソコンモニター(平面)を見ながら行い、最終的にはドームスクリーンに上映するわけですが、平面と球面では見え方が大きく違います。一度で見栄えの良い映像はできませんので何度か修正して完成に至ります。」

天浜線_車窓撮影

そんな苦労を振り返りつつ、伊藤さんはこう語ります。

伊藤さん「制作中は、トンネルに入ったり出たりの繰り返しのような、まさに“生みの苦しみ”を味わっています。でも完成したら、きっと誰よりもこの番組を楽しんでいることでしょう。」

また、今回の作品で、旧作と大きく異なる点のひとつが、2022年に導入された光学式投影機「ケイロンⅢ」の存在です。
以前よりも、より本当の星空に近くなりました。

ケイロンⅢ

伊藤さん「ケイロンⅢは星の明るさを調整することができます。例えば、3等星の星は100%の明るさで出力し、4等星の星は本来の70%の明るさで出力するといった具合です。番組の中ではいくつかの場所で途中下車して星を見ますが、場所によって星の見え方は異なります。市街地を離れて郊外に行くと、3等星はしっかり見えて、4等星も見えてはいるけど、やっぱり街明かりの影響で暗く感じる…。といった状況があります。そんな実際の星空にケイロンⅢは限りなく近づけてくれます。」

プラネタリウム番組「天竜浜名湖鉄道 星空紀行」は、12月26日より、公開します。

天浜線_ポスター

伊藤さん「星と列車を同時に楽しめる、少し欲張りなプラネタリウムです。ローカル線ならではの景色を通して、空の広さや、自然の壮大さを感じていただけたら嬉しいですね。」

天浜線_二俣撮影
生解説