タンポポとナメクジの意外な関係

さまざまな場所でよく見かける「タンポポ」。
タンポポは全国で15種、科学館自然観察園にもセイヨウタンポポ、トウカイタンポポ、シロバナタンポポの計3種が生息しています。一口にタンポポと言っても、さまざまな種類があるのですね。自然観察園のタンポポは、2つのグループ(外来種・在来種)に分けることができます。

外来種とは人が移動させた生き物のこと。対して在来種はもともとそこに生息する生き物のことです。この2グループ間で花の形が異なる部分があるのですが、分かりますでしょうか?

正解はこちら。

赤色矢印の外総苞片(がいそうほうへん)と呼ばれる部分です。外来種ではそり返り、在来種では茎や花に張り付いています。外総苞片にはもともと花弁を包み、支える機能がありますが、なぜ外来種の外総包片はそり返っているのでしょうか?

この疑問を解く鍵となる登場人物が、チャコウラナメクジです。セイヨウタンポポとチャコウラナメクジは、もともとヨーロッパに分布していましたが、人間によって日本に持ち込まれました。つまり、チャコウラナメクジも外来種なのです(以下、外来タンポポ、ナメクジ)。

ナメクジは植食性(植物を食べる)で、特にタンポポの花が大好物。ナメクジが日本に定着したことで、在来タンポポへ悪影響があるのではと心配されています。ある研究では、外来タンポポと在来タンポポを植えた実験場へナメクジを放ち、食害の有無を調べました。すると、ナメクジは在来タンポポのみを食害し、外来タンポポは食べませんでした。
ナメクジは外来タンポポの茎を昇るものの、そり返った外総包片を乗り越えられずに引き返したり、そこで長時間とどまったりしました。一方、在来タンポポの場合、ナメクジは易々と外総包片を乗り越えて花を食べてしまいました。

セイヨウタンポポのそり返った外総包片には、「ネズミ返し」のような機能があったのですね。

ヨーロッパで長い時間をともにした、セイヨウタンポポとチャコウラナメクジ。その過程で、セイヨウタンポポはナメクジ防御のために外総包片の形を進化させました。彼らはそれぞれ別々のタイミングで日本に持ち込まれ、再会を果たしました。セイヨウタンポポのそり返った外総包片は、ここでもナメクジ防御として機能します。

一方、在来タンポポたちにとって、チャコウラナメクジは初対面です。花を咲かせると謎の生き物が茎を昇って食べてしまいます。防御する機能がないため、チャコウラナメクジに選択的に食べられている可能性があります。

生命の誕生以来、生き物たちはそれぞれの地域で、長い時間をかけて現在の関係性を作り上げてきました。ある地域での生き物たちの関係性は、繊細なバランスで成り立ち、人間には再現不可能なかけがえのない物語なのです。

私たちは意図的に、あるいは非意図的に生き物たちを移動させてきました。これらの移動は本来の生き物たちの移動距離、頻度、量をはるかに超えるものです。外来種を増やすことは、かけがえのない生き物の地域固有性、つまり地球の歴史・物語を破壊することを意味します。

道端で観察できる生き物の進化の歴史。
タンポポを見つけたら、ぜひ外総包片の形をチェックしてみてください。

タンポポを題材に、外来生物の問題をテーマにしたより詳細な情報を科学館noteで公開しています。興味のある方は是非ご覧ください。
タンポポとナメクジの知られざる物語。(note)

イベント名:105歩で生き物観察【タンポポ編】
開催日:2022年4月3日(日)
イベント担当者:小粥隆弘(生き物博士)
参考資料
・「チャコウラナメクジ」国立環境研究所 侵入生物DB. https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/70390.html.
・『外来生物ずかん』五箇公一 (ほるぷ出版, 2016).
・「セイヨウタンポポ」国立環境研究所 侵入生物DB. https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/80640.html.
・Wu, F.-Y. & Yahara, T. Recurved Taraxacum phyllaries function as a floral defense: experimental evidence and its implication for Taraxacum evolutionary history. Ecol. Res. 32, 313–329 (2017).

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