身の回りの“とろける”素材~熱可塑性~

昔の外国を舞台にした映画やアニメーションで、手紙の上に蝋を溶かしてスタンプを押し、封をするシーンをご覧になったことはありますか?
この手紙に封をする蝋を“シーリングワックス”と言い、日本では封蝋とも呼ばれています。中世ヨーロッパの貴族は、手紙や封筒に自分の家紋などをモチーフにしたスタンプを押すことで、差出人の証明、現代でいうサインとして使用していました。

ワックス(蝋)とは、常温で固体の油脂のことです。ハチの巣から採れる蜜蝋や、石油を原料としたパラフィンワックスなどさまざまな種類がありますが、ワックスに共通する性質として「熱可塑性」があります。

熱可塑性とは、加熱すると軟らかくなり、冷えると硬くなる性質のことです。ワックスのように熱可塑性を持つ物質は、加熱してスタンプを押したり、型に流し込んだりと、自在に成型加工することができます。

一方、冷えて硬くなったワックスに力を加えると、割れてしまいます。これによって、手紙や封筒が途中で開封されたり、すり替えられたりすることを防止していたのですね。
シーリングワックスは、熱可塑性という性質を上手に活用した、実用的な封印方法でした。

現代に暮らす私たちの身の回りにも、熱可塑性のものがたくさんあります。

一つはプラスチック製品です。原料となる樹脂を熱して溶かし、金型に流し込んで冷やすことで、ペットボトルやお弁当の容器など、あらゆる形に加工することができます。用途によって、強度や溶ける温度が異なる樹脂が使われています。3Dプリンターの材料も、熱可塑性のプラスチックを熱して溶かし、一層一層積み重ねていくことでさまざまな形を作ることができます。

食べ物にも熱可塑性のものがあります。チョコレートや飴です。温めて溶かしたチョコレートを型に流し込み、冷蔵庫で冷やせば好きな形に加工できます。チーズも熱可塑性なので、温めるとトロっととろけて、冷めると固まります。このように、熱可塑性の物質は現代の暮らしに欠かせない物であることが分かります。

反対に、熱を加えると硬くなったまま元の状態に戻らない性質を熱硬化性といいます。卵やクッキー生地は一度焼くと、再び熱を加えても元の状態には戻りません。熱により、材料の性質が変わってしまうためです。
陶磁器や、プラスチックの一種も熱硬化性を持ちます。これらは高温の場所でも使うことができます。

「チーズオムレツ」はチーズを卵で包むようにして焼いたオムレツです。温かいチーズオムレツを食べると、中のチーズが溶けて口いっぱいに広がります。熱可塑性のチーズ、熱硬化性の卵という科学的な性質を見事に応用したメニューです。

イベントでは、シーリングワックスに蓄光顔料を混ぜ、暗闇で光るシーリングワックスを作りました。
まずは専用のスプーンにワックスを入れて熱し、溶ける様子を観察します。

溶けたシーリングワックスに蓄光顔料を加えて、みらいーらマークのスタンプを押します。

ワックスが冷えたら完成。失敗しても大丈夫です。熱可塑性なので、もう一度温めれば再加工できます。
作ったシールが暗闇で光ることを確認すると、参加者の皆さんはとても喜んでいました。
皆さんも身近にある素材の性質に注目してみてください。熱可塑性、熱硬化性の物質は、どんなものに使われているでしょうか。

イベント名:シーリングワックスで蓄光シールをつくろう
開催日:2022年9月19日(月)
イベント担当者:水谷穂波
参考書籍:『シーリングワックスの本』 平田美咲著(誠文堂新光社)
『オリエントの印章』 ドミニク・コロン著(學藝書林)