夜の科学館:空を見ると分かること

浜松科学館では月に一度(毎週第2金曜日)、高校生以上を対象に「夜の科学館」を開催しています。開館時間を延長し、常設展をご覧いただけることに加え、プラネタリウムやサイエンスショーなど、昼間の科学館とは趣の違う大人の方向けのプログラムを実施しています。今年度の夜の科学館では「大人がワクワクする科学館」を目指して、毎月異なるテーマを設定し、さまざまなコンテンツをご用意しました。本ブログでは、科学館ならではの切り口で毎月のテーマと科学の関わりを紹介します。

12月のテーマ『空』
空にはさまざまな姿があります。昼の空、夜の空、雨の日と晴れの日、夏と冬、、、どの空にも、それぞれ違った魅力があります。今月は、空を見上げて科学を感じるプログラムを実施しました。

〇ふたご座流星群

みなさんは「流れ星が見えている間に願いごとをすると叶う」という話を聞いたことがありますか?

昔の人たちは、天には神様が住んでいると考えていました。
神様はときどき、天のドアを開けて地上の様子を覗きます。その時、漏れ出た天の光を流れ星だと考えました。そのため、流れ星が見えているときは、神様が地上を見ているので、そのときに願いごとをすれば叶いやすいと考えたようです。
ただ、流れ星はあっという間に見えなくなってしまうので、願いごとをするのは大変です。
でも、諦めないでください。1年に何回か流れ星をたくさん見ることができる日があります。
夜空の一点を中心として、放射状に広がるようにたくさんの流れ星が流れる現象を「流星群」といいます。
また、その夜空の一点(放射点といいます)が位置する星座の名前をとって「〇〇座流星群」といいます。
2023年12月14日の夜から、15日の明け方にかけて、ふたご座の方から流れ星が流れて見える「ふたご座流星群」がピークを迎えると予報されています。

2023年は、月明かりの影響がない(12月13日が新月)ため、暗い流れ星も見える可能性があり、空の暗い場所(星がいっぱい見える場所)では、1時間に数十個程度見えるかもしれないと予想されています。
ただし、浜松の街なかなどでは、街の灯りで暗い流れ星が見えなくなるため、1時間に数個程度しか見ることができないと予想されています。

では、どうして星が流れるのでしょうか?
星座を作っている星(恒星)が流れるわけではありません。
宇宙空間にはたくさんの小さなチリなど(流星物質といいます)が漂っています。

そのチリなどが地球に落ちてきて、地球の大気とぶつかって大気が押しつぶされて高温になります。
高温になった大気はプラズマ(電気を帯びた気体)になって光ります。これが流れ星です。
流れ星のもとである「流星物質」は彗星(ほうき星)が撒き散らしています。彗星は、チリやガスが氷で閉じ込められてできています。彗星が太陽の近くに来ると氷が溶けて、閉じ込められていたチリやガスが吹き出します。これが彗星の尾です。彗星が通ったあとには、たくさんのチリでできた道ができます。
その道の中に地球が飛び込んでいくと、たくさんの流れ星になります。


ふたご座流星群の「流星物質」を撒き散らした天体(母天体)は「ファエトン」という小惑星です。
「ファエトン」は彗星の成れの果てだといわれています。
小惑星「ファエトン」が、これまでに撒き散らしたチリが軌道に沿って残り、チリの道のようになっています。
地球は太陽の周りを1年で1回転するので、1年後には同じチリの道の中を通ります。
そのため、毎年同じ時期に流れ星が見られるのです。
このとき、地球から見ると「ふたご座」の方から流れてくるように見えるので、「ふたご座流星群」といいます。

流れ星は空のどこに見えるかわかりません。寝転んだりして空全体を眺めながら、街灯の光などが目に入らないようにすると見つけやすくなります。
防寒対策をして流れ星を探してみてください。そして、流れ星に願いごとをしてみてはいかがでしょうか。

〇展示ツアー「宇宙」

北斗七星は、北の空に見えるひしゃく型の7つの星の並びです。
常設展示室にあるこの8つのライトも、北斗七星の星の並びを再現しています。

しかし、私たちが夜空で見るような、ひしゃくの形には見えません。この北斗七星は、地球から離れ、別の角度からみたときの姿です。夜空の星々は平面上に並んでいるように見えますが、それぞれ地球との距離が異なります。北斗七星は、一番近い星で80光年、遠い星は123光年離れています(1光年=9兆4600億㎞)。そのため、視点を変えると星の並びがまったく異なって見えるのです。

常設展示「星座を見つけよう」を使って、地球と同じ角度からライトを見てみると、おなじみの北斗七星の形になっていることが分かります。

常設展示「星座を見つけよう」

宇宙にある天体の情報をより詳しく知るためには、観測だけでなく、試料を地球に持ち帰って分析する必要があります。

小惑星探査機はやぶさ2は、小惑星リュウグウからサンプルを採取し、地球に届けました。
リュウグウは火星と木星のあいだの小惑星帯にあります。はやぶさ2は遠く離れた天体に向かうため、最小限の燃料で効率よく航行できるような技術が必要でした。そのために用いられた技術の一つが「スイングバイ」です。
スイングバイは惑星の重力を利用して、探査機の進路を変えたり、機体の加速、減速を行う航法です。
常設展示「スイングバイ」では、惑星の重力による探査機の進み方、速度の変化を体験できます。地球から打ち出された探査機(ボール)が、惑星(穴)の横を通ると、重力に引っ張られ、進行方向が変わります。はやぶさ2は、この航法により2015年に地球スイングバイを行い、機体を加速させ、リュウグウに向かいました。

  • 常設展示「スイングバイ」
  • 「はやぶさ2」実物大模型(※当館には展示しておりません)

近年になって発展した天文学の分野が、ニュートリノ天文学です。
宇宙から地球には、素粒子のひとつであるニュートリノがたくさん飛来しています。ニュートリノはとても小さく、ほとんどの物質を通り抜けてしまうため、検出するためにはニュートリノが通り道にある物質とぶつかったときに生じるチェレンコフ光という弱い光を観測します。
岐阜県神岡町にあるスーパーカミオカンデは、チェレンコフ光を観測するためのセンサー「光電子増倍管」を、地下1000 mの場所に1万3千本設置することで、太陽や超新星爆発によってできたニュートリノを観測しています。
カミオカンデで観測された超新星爆発によるニュートリノの観測によって小柴昌俊先生が、ニュートリノ振動の発見によって梶田隆章先生がノーベル物理学賞を受賞しています。

常設展示「カミオカンデVR」の光電子増倍管

空をみると、宇宙だけでなく、地球のことや生命のことを知ることができるのです。

〇特別サイエンスショー「お天気実験」

気象を知る上で外せない現象が「対流」です。
対流とは、流体の流れによって熱が伝えられる現象です。

まずは液体で確認してみましょう。
熱い味噌汁を良く見てみると、中で味噌が渦巻いているのが観察できます。

味噌汁の表面は外気に触れるため、温度が下がります。液体は温かいものは軽く、冷たいものは重いという性質があるため、冷たい表面の液体は下へ、温かいお椀の底の液体は上へと移動します。
これが対流です。
サーモインクを使って実験してみました。対流の様子が分かるでしょうか。

(写真は、上段から左から右へ見てください)
冷たいところが青色、温かいところがピンク色になります。
ビーカーの左下で温められた水(ピンク色)が上昇して、まずは水面がピンク色に変わり
ます。上向きの流れが生まれ、ビーカーの中に対流が発生します。

これと同じことが大気中で起こっています。
太陽の熱で温められた地上の温かい空気と、冷たい上空の空気は入れ替わろうとします。

地上から上空10km~16kmの対流圏と呼ばれるところでは、空気が入れ替わる対流活動が活発に行われています。それによって水蒸気が凝結し、雲が発生することで降雨や雪などの気象現象につながります。
温度差が生まれると、気圧も変化します。気圧の高いところから低いところへと空気が動きます。空気が動くと、風が吹きます。
さまざまな気象現象が起こるのは、この対流が大きく関わっているのです。

〇羽の比較~飛べる鳥と飛べない鳥~

空を優雅に飛ぶ鳥。
鳥たちは、骨の軽量化や胸筋の肥大化など、飛ぶために工夫をこらしています。
今回は、それらの工夫の一つ「羽根の構造」をご紹介しましょう。

まずは飛べる鳥の代表としてシロハラの羽根を観察してみましょう。
シロハラは冬鳥として日本を訪れます。ある日、科学館の窓にぶつかって死んでしまったシロハラを見つけました。少しでも報われてほしいということで、死体を羽根や寄生虫の観察に活用しています。

シロハラの羽根1枚を電子顕微鏡で見てみると…

たくさんの羽根が整然と並んでいます。
1枚の羽根は何枚もの小さな羽根のような構造:羽枝(うし)が集まって形作られているのです。

羽枝の縁をさらに拡大すると…

小さなモヤシのような物が並んでいるのが分かります。これは硬いフックのような構造で、隣の羽枝にひっかかります。マジックテープと同じ原理ですね。
羽枝がフックによって連結して板状になることで、たくさんの空気をとらえ、鳥たちの飛翔に一役買っています。

次に飛べない鳥の代表として、ペンギンの羽根を見てみましょう。

浜松市動物園からお借りしたフンボルトペンギンの羽根1枚を電子顕微鏡で見てみると…

なんだか、もじゃもじゃですね。

シロハラと同じように羽枝は並んでいますが、隙間だらけで見るからに飛ぶことはできなさそうです。

よく見ると羽枝に枝毛のような構造が並んでいますね。枝毛は絡まり合い、もじゃもじゃとした空間が生まれています。この空間は、周囲の冷気と温かい身体との間で断熱材の役割を果たすと考えられています。飛ばなくなったペンギンたちにとって、羽根の役割は空気を捉えることから、保持することにシフトしたのですね。

基本構造は同じ羽根でも、ミクロな形状を変えるだけでその機能は大きく変化するようです。1枚の羽根から、生き物たちの効果的な進化の妙を観察することができました。

科学の視点から見た「空」はいかがでしたでしょうか?
このほかにも、3D星座模型を作るミニワークショップや、星グッズやクリスマス雑貨の販売を行いました。

  • ミニワークショップ「3D星座模型」
  • でんけんラボ 羽の比較~飛べる鳥と飛べない鳥~
  • 展示ツアー「宇宙」
  • サイエンスショー「お天気実験」

次回の夜の科学館は、2024年1月12日(金)テーマ『旅:科学と一緒に出かけよう』

ご来館、お待ちしております。

イベント名:夜の科学館
開催日:2023年12月8日(金) 毎月第2金曜日
参考資料:
国立天文台 https://www.nao.ac.jp/astro/sky/2023/12-topics02.html
『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』荒木 健太郎 著 ダイヤモンド社
はやぶさ2拡張ミッション https://www.hayabusa2.jaxa.jp/topics/20151014/
スーパーカミオカンデ公式HP https://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/sk/