浜松科学館では月に一度、高校生以上を対象に「夜の科学館」を開催しています。開館時間を延長し、常設展をご覧いただけることに加え、毎月異なるテーマでプラネタリウムやサイエンスショーなどを実施しています。今年度の大テーマは「日本文化と科学」。慣れ親しみのある日本の文化と、科学がどのように結びつくのかお楽しみください。本ブログでは、毎月のプログラムの内容の一部をご紹介します。
5月のテーマ『お茶』
お茶は、奈良・平安時代に唐から日本へもたらされたといわれています。当時のお茶は茶色い餅茶(へいちゃ)で、貴族が嗜む貴重な飲料でした。江戸時代の頃には、お茶は庶民にも親しまれるようになります。庄屋だった永谷宗円は、茶葉を発酵する前に蒸す青製煎茶の製法を開発し、日本の煎茶の基礎を築きました。煎茶は、グリーンティーとして海外へも輸出されていきます。
静岡県にお茶が持ち込まれたのは鎌倉時代。気候が適していたことや、東海道の交通の便がよかったことから栽培が盛んになり、茶の名産地として知られるようになりました。静岡県で生産されるお茶の特徴は、通常より蒸し時間の長い深蒸し茶が多いことです。長く蒸すことで色が濃く、味わい深いお茶になります。
今月の夜の科学館では、科学館職員が日本の文化「お茶」を科学の視点からご紹介しました。
でんけんラボ「茶葉」
お茶の葉をじっくり観察したことはありますか?下の写真は、お茶になる前の「チャノキ」という植物の葉っぱです。緑茶だけでなく、紅茶やウーロン茶もこのチャノキの葉から作られていますが、葉を加熱するタイミングなど製法が異なるため、香りや味わいが変化します。

チャノキの葉を電子顕微鏡で拡大してみましょう。
葉の表側は、つるっとしていて目で見た時とあまり変化がありませんが、裏側は口のようなものがたくさんついているように見えます。これは気孔といって、植物が気体をやり取りしたり、体内の水分を蒸発させるはたらきをしています。


チャノキの葉から作られた茶葉がこちらです。


緑茶は、摘んだ生葉を蒸したあと、揉みながら乾燥させることで作られます。詳しいお茶の作り方は、科学館公式Note 「深蒸し茶ってどんなお茶?【浜松ミクロ散歩「お茶」前編】 でもご紹介しています。
機械で揉んだ茶葉と比べると、手もみの茶葉は細長いことが特徴です。
茶葉は揉むことで丸まり、針のように細長くなります。端を見ると、機械で揉んだお茶は葉が破れているように見えます。手揉みのほうが、細かな力加減の調節が出来るため、葉を破らず揉むことが出来るのです。
茶葉をお湯につけ、広げたものを観察すると、気孔が見えます。元の葉っぱに戻ったようにも見えますが、よく見ると、シワやひび割れが目立ちます。細胞内の成分が流れ出てくることで、お茶のうま味や風味を楽しめるのですね。

特別サイエンスショー「お茶の科学」
ここからは科学の目でお茶を見てみましょう。お茶に含まれる成分の1つにカフェインがあります。
カフェインには、
・脳の活動を活発にして、眠気を覚ます
・脳への血流を促進し、集中力を高める
・筋肉の収縮を助け、運動能力を高める
・腎臓の働きを活発にし、利尿作用を高める
これらの働きがあります。
そもそもお茶が飲まれるようになった理由の1つは、目覚まし効果によるものと言われています。昔、僧侶が修行の際、眠くなるのを防ぐためにお茶を飲んだとされており、これがカフェインによるものだと後に判明しました。カフェインには即効性があり、口から接種すると30分~1時間で血中のカフェイン濃度がピークになります。お茶を飲むとトイレに行きたくなるのもカフェインが関係しています。
カフェインはお茶以外にもたくさん含まれています。
「茶類に含まれるカフェインの量」
種類 | 100mlあたりのカフェイン含有量 |
玉露 | 160mg |
コーヒー | 60mg |
紅茶 | 30mg |
煎茶 | 20mg |
ほうじ茶 | 20mg |
ウーロン茶 | 20mg |
番茶 | 10mg |
高級なお茶として知られる玉露には、たくさんのカフェインが含まれます。理由は製造工程にあり、玉露用の茶葉は新芽がまだ柔らかいうちに摘み取られます。若い芽には、成熟した葉よりも多くのカフェインが含まれているため、玉露のカフェイン含有量が高くなります。
ではカフェインを見てみましょう。このトゲトゲとしたものがカフェインです。

カフェインは178℃で昇華(個体から気体になる現象)する性質があり、これを利用して比較的かんたんに抽出することができます。
①フライパンに、粉末にしたお茶を引く
②その上に、茶葉を乗せる
③加熱する
④3分程度加熱すると、白い煙が出てくる
⑤煙が出てからさらに3分程度加熱し、火を止める
⑥少しおいてから茶葉を観察する。
茶葉の縁に白い粒状のものが見えたら、それがカフェインです。一度昇華させたカフェインを冷やし、再結晶させたものです。虫めがねでも観察することができます。今回は緑茶での抽出方法ですが、紅茶やコーヒーも同様に実験することができます。夏休みの自由研究にいかがでしょうか。
※実験の際には、やけどや火気に十分に注意してください。
特別投影「星降る茶畑」
暗くなって星や星座が… 見えてきました…?

いや、これは分子構造ではありませんか!
仕事柄、星の話をしていると、点と点が線でつながっているものはすべて星座に見えてしまうものです…。
茶番はここまでにして、分子について少しご紹介します。これらは緑茶に含まれる分子です。カテキンは酸化防止、消臭、消毒の効果があり、渋みのもとです。カフェインは眠気防止効果があり、苦みのもとです。グルタミン、テアニンなどはうまみのもとです。高級緑茶の玉露にはテアニンが多く含まれているため、うまみを強く感じます。
クロロフィルは、赤色や青色の光を吸収する色素で、緑色の光を反射するため、緑茶が緑色に見えます。植物の葉が緑色なのも、クロロフィルが含まれているためです。しかし、摘み取った茶葉をそのままにしておくと酵素のはたらきで茶色に変色します。これが紅茶やウーロン茶です。緑茶は茶葉を高温で加熱することで、酵素のはたらきをおさえ、緑色を維持しているのです。
ではここからは、茶畑を舞台に星空を見ましょう。



磐田市豊岡岩室の茶畑から見ると東、南、西の方向に市街地が連なっているため、夜は街明かりで空が明るくなっています。そこで今回は北の星空を中心にご紹介しました。この時期の目印は北斗七星です。北寄りの空に見える大きなひしゃくの形です。
北斗七星は、おおぐま座の星並びの一部です。そして実は、真北(まきた)の空にも小さなひしゃくの形が隠れています。これは、こぐま座の星並びです。そしてこぐま座の尻尾の先で輝く星が北極星です。北極星は地軸の延長線上にあり、時間とともに位置を変えない星です。そのため、北の方向を指す目印の星とされています。逆に北極星以外の星は時間とともに位置を変えます。星空を連続して撮影し、重ねていくとこのような写真が出来上がります。星の軌跡です。その中で軌跡が伸びていない星が北極星です。
空の低いところを東西に横切っている点線は飛行機の軌跡です。

さて、毎年ゴールデンウィークの終盤には流星群が見られます。「みずがめ座η(イータ)流星群」です。流星群は彗星(ほうき星)がまき散らした塵と地球がぶつかることで起こります。彗星は太陽に近づくと、太陽の熱で溶け、ガスや塵を放出します。彗星が通った後には塵の帯ができます。数ある塵の帯の中で、地球の公転軌道と重なるものがあり、それが定期的な流星群として話題になるのです。みずがめ座η(イータ)流星群は1時間当たりの流星数は少ないものの、毎年決まった時期に起こります。
流星が光って見えるのは、地球の空気が熱くなって光るからです。宇宙にある塵が猛スピードで地球に落ちてくると、落下方向に空気を押し込みます。これは注射器のピストンを思い切り押した時の様子に似ています(ピストンが落下する塵にあたります)。これを断熱圧縮といいます。断熱圧縮で空気を構成するヘリウムや酸素の運動エネルギーが大きくなり、塵の周囲の空気はとても熱くなります。熱くなった空気は光ります。これが流れ星の光です。一方、空気という“壁”に当たり続ける塵はやがて壊れたり溶けたりして上空で消滅します。これをよく“燃え尽きる”と言います。しかし中には燃え尽きずに地上まで到達するものもあります。これを「隕石」と言います。


まさに新茶の時期は、星降る夜なのです。
未明の東の空に天の川が昇っています。そこには夏の大三角も見えています。南西の空にはさそり座も昇っています。5月頃、夜遅い時間には夏の星が空の主役となります。
さて、世界で最初にお茶を発見したのは神農(しんのう)だと言われています。神農は中国の医神や農耕の神とされており、当時はお茶を薬として扱っていたようです。中国星座の考え方によると神農を表す星がさそり座にあたる星と言われています。5月、さそり座が昇り切る午後10時頃、風の音や水が流れる音を聞きながら茶畑の中に身を置くと、空から神農が見守っているように思えてきます。

そして、もうひと月経つと夏至となります。短い夜が終わりを告げるとき、東の空に力強い輝きを放つ星が昇ってきます。金星です。金星が空高く昇ろうとする勢いと裏腹に、太陽の光が金星を上回り、朝がやってきました。朝陽に照らされた茶葉はますます鮮やかな緑色を放っています。
「朝茶に別れるな」ということわざがあります。朝にお茶を飲まずに出かけてはいけないという意味で、朝のお茶はその日一日の災いから守ってくれると言い伝えられています。
みなさんも、朝茶を飲んで、いってらっしゃい!
科学の視点からみた「お茶」、いかがでしたか?
身近なものだからこそ、知っておきたい知識もあったのではないでしょうか。
当日は、みらいーらルームで簡単な利き茶体験や、ミュージアムショップでお茶の販売を行いました。皆さんも、お茶を飲むときにはブログの内容を思い出してみてください。





開催日:2025年5月9日(金) 第2金曜日
参考資料
・ふじのくに茶の都ミュージアム
・めざせ!お茶博士こどもお茶小事典お茶の基本108と88のQ&A 2012 発行:静岡県経済産業部 農業局 お茶振興課
・ウェブサイト お茶百科 お茶の成分と健康性/お茶の歴史 お茶の発祥【伊藤園】
https://www.ocha.tv/history/birthplace/
・ウェブサイト cha museum お茶と歴史 【静岡・お茶の市川園】
https://museum.ichikawaen.co.jp/history/myth.php