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夜の科学館

夜の科学館:装いと科学

202511月夜の科学館

浜松科学館では月に一度、高校生以上を対象に「夜の科学館」を開催しています。開館時間を延長し、常設展をご覧いただけることに加え、毎月異なるテーマでプラネタリウムやサイエンスショーなどを実施しています。今年度の大テーマは「日本文化と科学」。慣れ親しみのある日本の文化と、科学がどのように結びつくのかお楽しみください。本ブログでは、毎月のプログラムの内容の一部をご紹介します。

11月のテーマ『装い』

11月12日は「洋服記念日」です。東京都洋服商工協同組合により、昭和4年11月12日に制定されました。制定の由来は、明治5年11月12日に太政官布告令が出されたことです。太政官布告令にて「爾今礼服には洋服を採用する」との布告があり、洋服が儀礼時の定服になったことから「洋服記念日」が設けられました。「洋服記念日」は日本独自の記念日で、毎年11月12日には明治神宮で式典が行われています。新しい日本文化の誕生とも言えそうです。

〇特別投影「天と地の羽衣」

かぐや姫、織姫、天女…。星にまつわる昔話を調べていると、きまって美しい女性が羽衣をまとっている姿が登場してきます。
 
羽衣とは天上の人々が持つ、空を飛ぶことができる不思議な布と言われています。きっと多くの方が、薄くて軽く、透けている生地を想像するでしょう。現実の世界で“羽衣らしさ”を感じるものといえば、オーガンジーという生地やショール、ストールといった服飾品があげられます。非常に細い糸で織られた生地で、風になびく様子はまさに空飛ぶ布を想起させます。
 
天女の羽衣伝説は日本各地にあり、静岡市の三保松原にも伝えられています。
昔、漁師の男が、松の木にかけられた美しい布を見つけます。この世のものとは思えない美しさに「これは羽衣に違いない。家宝にしよう。」と思って持ち帰ることにしました。そこへ天女が現れます。「どうか、その布をお返しください。天に帰るために必要なのです。」と言います。「では天界の舞を見せてくれませんか。」と漁師は言いました。天女は羽衣と引き換えに天の舞を踊りました。美しい舞に漁師は見惚れます。そして羽衣をまとった天女はふわりと宙へ舞い上がり、天に帰っていきました。

天女の羽衣伝説

地上に住む者にとって、羽衣は美しいもの、高貴なものと捉えられたようですね。

さて、星を語る身としては、宇宙を彩る美しい現象や天体こそ、空をたゆたう羽衣と重ねてしまいます。

オーロラ

オーロラは地球の酸素や窒素に太陽から飛んでくる電気を帯びた粒子がぶつかって光る現象です。北欧神話では、女戦士・ヴァルキリーの鎧の光だと伝えられています。幻想的な色で揺らめくカーテンのような光景は二度と同じ形を見せてくれません。

バルト三国のひとつ、エストニアには、渡り鳥の道案内をする美しい妖精「リンド」に天の星たちが求婚にやってくる神話が伝えられています。北極星や太陽、月が求婚しますが、誰も自分にはふさわしくないと断り続けました。最後にカラフルな光を纏うオーロラがやってきて、結婚を申し込んだところ、その美しさに魅了され、結婚を受け入れたといいます。

羽衣星雲

星雲です。宇宙にあるガスを撮像し、画像処理を行うとこのような姿が現れます。

星雲は星が一生を終えた後に残すガスのことです。星が寿命を迎えると、球形をとどめておけなくなり、星を構成していたガスが拡散していきます。あるいは超新星爆発を起こして、一気にガスを吹き飛ばします。その名残(超新星残骸)を望遠鏡で見ると、羽衣のような姿をしている星雲があります。写真の星雲は、はくちょう座の方向にある、超新星残骸です。網状星雲や羽衣星雲、ベール星雲という愛称がついています。

星雲はやがて新しい星の元になります。私たちの太陽も、かつて宇宙のどこかで輝いていた星の残骸から生まれてきたのです。その中に地球が生まれ、私たちが生まれました。日本は四季の変化に富み、装いの種類も豊富です。宇宙の中で様々な装いができるのは、私たちだけかもしれません。

〇特別サイエンスショー「ボーダー(横縞)は太って見える?」

「ボーダーの服は太って見える」と耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

なんとなくこのことを意識して服選びをしている方もいるかもしれません。
今回は、この見え方について、科学的な視点から考えてみたいと思います。
 
まずはこちらの画像を見てください。

縦縞と横縞

どちらが縦に長く見えるでしょうか?

実は、ボーダーの方が縦長に見えるという人が多いです。

これは「ヘルムホルツ錯視」と呼ばれる現象で、2つの正方形は同じ大きさなのですが、縦縞だと横に広がって見えて、横縞は縦に伸びて見えるという錯覚です。

線の太さを変えてみましょう。

細い縦縞と横縞
太い縦縞と横縞

線の太さや間隔を変えると、また違った見え方になります。錯覚の感じ方には個人差もあり、「必ずこう見える」というものではありません。
 
さて、話を服に戻しましょう。
こうした目の錯覚である「錯視」だけを見ると、「ボーダーはむしろ縦長に見えるのでは?」という疑問が出てきます。では、なぜ「ボーダーは太って見える」というイメージが広まったのでしょうか。
 
ここで、もう一つの錯視を紹介します。
今度はこちらの図を見てください。

2本の赤い線の間に5本の黒い線

二本の赤い線があり、その間に黒い線が5本あります。
赤い線2つの中央はどこに見えるでしょうか。

多くの人は、4本目と5本目の間を中央だと誤って判断します。しかし、正しくは5本目が中央です。

5本目の黒い線

これは「オッペルクント錯視」と呼ばれ、細かく区切られた領域の方を、過大評価して大きく見てしまう、という特徴があります。

この2つの錯視を使うと、「ボーダーが太って見える」現象について説明ができそうです。

ヘルムホルツ錯視は平面上で起こる現象ですが、服は立体的な身体の上にあります。体型によって布が張ったり、シワが寄ったりし、ボーダーの幅や間隔が均一ではなくなることがあります。すると、細かく区切られたように見える部分が生まれ、オッペルクント錯視が働きやすくなります。つまり、線の太さや間隔の変化、布の張りやシワなどによって、細く見える場合も太く見える場合もあるということです。

つまり、「ボーダー(横縞)の服は太る?」は半分本当で半分は誤解だったということになります。条件によって、錯覚が変化するため、このような説も生まれたのではないでしょうか。

私は、ファッションデザイナーではないので、服のチョイスのアドバイスはできませんが、自分に合った服を楽しむことが一番ですね。

〇でんけんラボ「Gall」

多くの人にとって聞き覚えのないであろう「Gall」という言葉。サッカーの得点や目的の意味で使われるゴールの綴りは「Goal」ですので今回の「Gall」とは異なります。

和訳すると意味の一つに「虫こぶ」があります。虫こぶとは、ダニやアブラムシ、ハチなどの動物が植物に作用して作られるこぶ状の構造を指します。

今回観察するのはヌルデという植物の虫こぶです(下写真)。

虫こぶ

なんだかミッキーマウスの手のような可愛らしい形をしています。触ってみると固く丈夫な印象です。

よく見ると虫こぶにも穴が空いているものと無傷なものがありました。試しに無傷な虫こぶを割ってみると…昆虫の死骸らしきものが出てきました。

虫こぶを割る

昆虫?と虫こぶの一部を電子顕微鏡で観察してみましょう。

こちらが昆虫?です。

電子顕微鏡で見た虫こぶの一部

これはアブラムシの一種で、虫こぶの形状からヌルデシロアブラムシと思われます。

ヌルデシロアブラムシは、春に越冬した個体がヌルデの葉に産卵します。するとヌルデの細胞が孵化した幼虫を包み込むように発達し、虫こぶが形成されます。幼虫は虫こぶの中身を食べながら成長し、単為生殖を繰り返します。虫こぶ内は大量のクローン個体で満たされ、虫こぶ自体も大きくなります。

秋に虫こぶにうまく穴が空けば、たくさんの新成虫が野外へ放出されるのですが、何らかの理由で穴が空かなかった場合は今回の一部の虫こぶのようにアブラムシたちは虫こぶの中で息絶えてしまうのです。

植物の成長や花や葉などの構造を形成する際には、植物ホルモンが作用します。虫こぶを形成する動物たちは、植物に異常な成長を促しているわけで、植物ホルモンと同等な物質を放出して植物へ影響していると考えられています。

虫こぶの断面を観察してみると、隙間なく何らかの固体で満たされていました。

電子顕微鏡で見た虫こぶの断面

この物質が何なのかを電子顕微鏡で明らかにすることはできませんが、ヌルデシロアブラムシの虫こぶにはタンニンが多く含まれていることが知られています。

粉末状にした虫こぶは、女性のお歯黒の原料として明治時代の初期まで使われていました。ようやく今月のテーマ「装い」に繋がりましたね。タンニンともう一つの原料である鉄由来の液体を合わせることで、黒色に変色します。この鉄とタンニンの化学反応は漫画「ゴールデンカムイ」274話でも登場します。

「え?アブラムシを歯に塗っていたの?」と違和感を持つ人もいるかもしれませんが、現代でも昆虫由来の色素は多く用いられています。例えばコチニールは、コチニールカイガラムシが原料となっており、ハム、かにかま、ソーセージなど様々な食品に使われています。

虫こぶはヌルデに限らず身近な植物でも観察することができます。葉の上でポコッとしたこぶを見つけたらぜひ割ってみてください。たくさんのアブラムシの幼虫たちと出会うことができるかもしれません。

協力:北杜市オオムラサキセンタ―(試料提供)

科学の視点からみた「装い」はいかがでしたでしょうか。オシャレの基準は場所や時代によってさまざまですが、科学的な視点を持っていれば、いつでも、どこでも「オシャレな人」になれるかもしれませんね。

202511月夜の科学館_サイエンスショー1
202511月夜の科学館_サイエンスショー2
202511月夜の科学館_でんけんラボ
202511月夜の科学館_ワークショップ

イベント名:夜の科学館
開催日:2025年11月14日(金)

参考資料

〇プラネタリウム
・羽衣の松と三保松原 清水海岸ポータルサイト 羽衣伝説
・海の京都Times 起源は丹後 日本最古の羽衣伝説
・奈良時代における吉祥天画像の着衣とその源流に関する考察/海老澤るりは 
・嵐山町web博物館 糸と衣服のこと

〇サイエンスショー
・錯覚の世界 古典からCG画像まで ジャック・二ニオ著 新曜社

〇でんけんラボ
・RESEARCH 植物の遺伝子を巧みに操る虫こぶ形成のしくみ/JT生命誌研究館
https://www.brh.co.jp/publication/journal/105/rp/research02/