浜松科学館では月に一度、高校生以上を対象に「夜の科学館」を開催しています。開館時間を延長し、常設展をご覧いただけることに加え、毎月異なるテーマでプラネタリウムやサイエンスショーなどを実施しています。今年度の大テーマは「日本文化と科学」。慣れ親しみのある日本の文化と、科学がどのように結びつくのかお楽しみください。本ブログでは、毎月のプログラムの内容の一部をご紹介します。
2月のテーマ『道』
日本には、剣道や茶道のように、技や精神、流儀を大切にする「〇〇道」という文化があります。今回は科学の視点?から「道」をみてみましょう。
〇でんけんラボ「竹」
竹は、剣道の竹刀や、茶道の茶筅・茶杓、華道の花入れなど「道」がつく日本文化に広く使われている日本人にとって馴染み深い植物です。

なぜ日本で古くから竹が使われているかというと、竹は温暖多湿な気候を好み、日本を含むアジアが一大自生地であることが挙げられます。他にも中南米やアフリカの一部にも自生しますが、ヨーロッパや北アメリカには分布しません。ヨーロッパの古代文明に竹製品が登場しないのは、世界的な生物分布の不均一性が影響しているのですね。
竹の物理的な特長として「軽くて丈夫」という点も日本文化に用いられている大きな理由の一つです。皆さん知ってのとおり、竹は芯が中空です。にもかかわらず、しなりやすく折れづらい性質があります。そんな竹の強さの秘密を電子顕微鏡で観察してみましょう。
こちらは稈(かん)と呼ばれる樹木の幹にあたる部分の縦断面です。

たくさんの縦方向の小さな部屋:細胞が集まって形作られていることが分かります。中央右よりにある太い管は道管と呼ばれ、水分を根から葉へ運ぶための配管の役割があります。
次に横断面を観察してみましょう。

こちらは中心部分(中空部分)に近い箇所を拡大したものです。ドクロのようなマークが散在しています。ドクロマークの目玉の部分が先ほど観察した道管です。そして鼻の部分が栄養分を運ぶための師管です。道管と師管をまとめて維管束と呼び、維管束を形作る壁は特に厚く丈夫で、竹の身体を支える役割も担っています。
より外側の維管束も観察してみると、中心部分よりも密度が高くなっていることが分かります。

この、外側ほど維管束の密度が高くなる構造によって、竹はしなりの強さを最大限にしていることを2017年に日本の研究者が明らかにしました。
最後に竹林の土を観察してみましょう。浜松市内の竹林から採取した土壌を水で洗い、沈殿した物質を拡大してみました。すると10㎛ほどの大きさの馬の鞍のような独特な形の物質が見られました。

これらはおそらくプラントオパールと呼ばれる物質です。竹を含むイネ科植物でよく観察され、植物種によって特有の形をしていることが知られています。
プラントオパールは植物の細胞内に形成されるケイ酸体です。ケイ酸体とはガラスとほぼ同じ物質で、固く、分解されづらい性質があります。これらのプラントオパールの特徴も強い竹の性質に一役買っています。蛇足ではありますが、竹とは形がやや異なるイネのプラントオパールが縄文時代の畑から発見され、大昔に稲作文化が日本に伝わっていたことを私たちに教えてくれました。
竹素材の製品を見かけたら、断面に存在する無数のドクロマークを思い浮かべてみてください。
〇特別サイエンスショー「サイエンスショー道とは」
今回のテーマは「道」。「みち」ではなく「どう」です。
まだ呼ばれてはいませんが、サイエンスショーにも確かに“型”や“流れ”、そして“流儀”があります。そこで、「サイエンスショー道」と題して、サイエンスショーの作り方や考え方をひも解いてみたいと思います。
まず、サイエンスショーはいつから始まったのでしょうか。
その歴史は古く、1827年、今から約200年前にさかのぼります。
マイケル・ファラデー が、王立研究所 で行った「クリスマス・レクチャー」において、1本のろうそくを使い、燃焼や気体、化学反応をわかりやすく実験で示しました。
これが、観客に“見せて伝える科学”の原点とされています。
その後、欧米の博物館や大学では、テスラコイルなどの大型装置を用いたダイナミックなパフォーマンスが行われるようになりました。
日本では1970年代に科学館の整備が進み、それとともに演示実験や実験ショーが各地で広がっていきました。
では、ショーはどのように作るのでしょうか。
大きく分けて、アプローチは2つあります。
1つ目は、テーマを先に決め、そのテーマに沿って実験を組み立てていく方法。
2つ目は、まず「ぜひ見せたい実験」があり、その実験が最も活きるように他の実験を組み合わせていく方法です。

実験のアイデアはできるだけ多く考えますが、最終的には取捨選択を行い、本当に必要なものだけを残します。
そして実験が決まったら、次に大切なのが「流れ」を作ることです。
起承転結を意識し、展開に無理や矛盾がないか、伝えたいメッセージがきちんと届くかを丁寧に検証していきます。
この構成こそが、サイエンスショーの“型”、いわば「道」です。
とはいえ、こうした裏側の工夫は、演じる側の話。
ご覧になる皆さまには、難しいことは考えず、どうぞ心からサイエンスショーを楽しんでください!
〇特別投影「プラネタリアンへの道 星語りの流儀」
当館では毎日6人の解説員が交代で、プラネタリウムの生解説を投影しています。どの日に来館しても満天の星とともに、旬の天文現象や趣向を凝らした演出を楽しめるのは、実は「当たり前」のことではありません。その裏側には、解説員一人ひとりの努力とこだわりが詰まっています。今回は、そんな投影の舞台裏を「プラネタリウム道」としてご紹介しました。
まず、解説や機械の操作を行う場所を「コンソール」といいます。プラネタリウムドームの一番後ろにあり、そこには操作ボタンやプログラミングや操作を行うためのパソコン、音響機器などが並んでいます。生解説中は、これらすべてを一人で操作します。

パソコンのソフトに備え付けのボタンでも操作はできます。ですが、お客様により楽しんでもらうため、オリジナルの星座絵など、解説員が独自の演出を用意することもよくあります。しかし、画像ひとつ表示するだけでも、見やすさや流れに合わせ、位置や明るさを手動で調整し、20行ものスクリプト(命令文)を書く必要があります。
また、当館の番組はすべて職員の自主制作です。番組を作るとなると、画像を表示する時の何倍もスクリプトを書く必要があります。星を出すタイミングや映像の映し方など、分かりやすさを追求し、ひとつひとつ手作業でプログラムを組み、試行錯誤を重ねてようやく完成させています。
さらに、表示する画像や映像も、既にあるものだけではありません。そのほとんどを職員が自ら取材・撮影し、制作や編集まで手がけています。そして、それらをドームに映した際に自然に見えるよう、あらかじめ湾曲させるなどの特殊な加工を施す必要もあります。


当館の解説には台本は無く、それぞれが語り口調や話の流れBGMなど「お話」の部分でもオリジナリティを持たせつつ工夫を凝らしています。このような番組作りや解説そのものへのこだわりというのは解説員によっても違います。6人全員が各々の「星語りの流儀」を持ってプラネタリウム道を極めているのです。

…と、聞いたらなんだか普段のプラネタリウムも少し見え方が変わってきませんか?解説員によって本当に解説の雰囲気が違いますから、解説員ごとの流儀を味わいに来てはいかがでしょうか。
サイエンスショーやプラネタリウムの舞台裏、いかがでしたでしょうか。
来月からの夜の科学館もお楽しみに。皆さんのご来館をお待ちしております。






イベント名:夜の科学館
開催日:2026年2月14日(土)
参考資料
Luo, G., Liu, C., Xu, R., Wang, C., Zhao, T., Duan, M., & Gao, K. (2025). Comparison of Phytolith Characteristics of Three Bamboo Species’ Cotyledon Organs. Plants 2025, Vol. 14, Page 1174, 14(8), 1174. https://doi.org/10.3390/PLANTS14081174
Sato, M., Inoue, A., & Shima, H. (2017). Bamboo-inspired optimal design for functionally graded hollow cylinders. PLOS ONE, 12(5), e0175029. https://doi.org/10.1371/JOURNAL.PONE.0175029