浜松の自然の成り立ち

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地殻プレートの運動による南アルプスの形成

 

浜松の北に位置する南アルプス。市内では山頂を含みませんが、標高は2000 mを越え、低標高域から常緑針葉樹林、落葉広葉樹林、ダケカンバ林など冷温帯の森林が広がり、1600種以上の植物、3000種以上の動物が生息しています。この多くの動植物を育む山脈を形づくっている岩石は、かつては海の底にありました。  私たちが住む日本は、地球を覆っている十数枚のプレートのうち4枚のプレート(北米プレート、ユーラシアプレート、太平洋プレート、フィリピン海プレート)の衝突部に位置しています【図1】

アースモニター
【図1】アースモニター

 海側の2枚のプレートには、それぞれ陸側のプレートの下に沈み込もうとする力が働いています【図2】。その際に、海側のプレートの表層部分が陸側のプレートによって削り取られます。さらに、その個所の地層が陸側の2枚のプレートの衝突によって押し上げられ現在の南アルプスが形成されました。また、浜松の北西に位置する北アルプスや中央アルプスも地殻プレートによる運動によって造られました。

リアルタイム地震
【図2】リアルタイム地震

 このように、浜松の大地を構成している岩石は、海に由来しています。その多くを占める石灰岩は、海産生物の遺骸(炭酸カルシウム)で成り立っています。石灰岩は雨水などによって溶かされ、地下水に溶け込みます。地下水脈が土壌を侵食してできた空洞に地殻変動が起こると、地下水脈がさらに深い層に移動し、洞窟ができます。その洞窟に炭酸水素カルシウムが溶けた地下水がしみ出し、二酸化炭素が放出され再び石灰岩が析出して鍾乳石ができます【図3】

浜松のすがた
【図3】浜松のすがた
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世界の海流・大気循環がもたらす浜松の気候

 浜松は比較的に平均気温が高く、平野部では極相林としてシイ・カシなどの常緑広葉樹林が優占し、イシガケチョウやミツノエンマコガネなど南方系の昆虫が生息しています。また、冬には「遠州のからっ風」と呼ばれる乾いた風が吹きます。これらの浜松の気候は、主に大気循環と海流という2つの地球規模の現象によってもたらされています【図1】。大気循環は、陸地と海面や地球全体の気温の高低差、地球の自転などによって引き起こされる空気の流れです。海流は、主に海水面で吹く風によって引き起こされます。

 浜松を含む東日本の太平洋側に注目すると、陸地では、夏には南東向きの南で暖められた空気を乗せた季節風が吹き、冬には北西向きの湿度が低い風が吹きます。一方、海では一年を通して南から温かい黒潮が供給されます。これらの大気循環・海流によって、温暖で冬に乾燥した浜松特有の気候が成り立っています。

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「あばれ天竜」が造った浜松の地形

 現在の浜松の地形誕生の物語は、約10万年前まで時をさかのぼります【図3】。当時の浜名湖や中田島砂丘は海の底にありました。その後、気候変動によって海面の上下運動や、天竜川などの河川による土砂移動などで現在の浜松が形づくられました。

 江戸時代、天竜川の川筋は定まらず、洪水を繰り返し、「あばれ天竜」と呼ばれ、恐れられていました。河川には土地の改変をもたらす3つの作用(浸食・運搬・堆積)があります。源流付近の山に降った雨は、低いところに集まって川となります。川は山を削りつつ流れ(浸食)、削った土砂を下流に運びます(運搬)。谷の出口では運ばれた土砂が積もり(堆積)、扇状地ができ、やがて海へ出ていきます。天竜川の作用によって、天竜川上流の土砂が当時の海底へ流入(運搬・堆積)し、浜名湖や中田島砂丘が形づくられました。日本三大砂丘に挙げられる中田島砂丘は、砂の色が白いことで有名です。この白色は、天竜川上流にある花崗岩に由来します。また、堆積した土砂は同じく天竜川によって再び浸食され、三方原台地が形成されました。

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浜松特有の地形、環境が多様な生き物を育む

 上記のとおり、浜松は、北は南アルプスの裾野から南は遠州灘まで、森林、湖、洞窟、河川、海岸など多種多様な環境がギュッと詰まった、とても魅力的な地域です。県内有数のギフチョウの生息地である枯山、カエルや水生昆虫の生息地である久留女木棚田、コウモリの棲みかである小堀谷鍾乳洞、絶滅危惧種カワラハンミョウ・アカウミガメの貴重な生息地である中田島砂丘、そして魚類や水鳥の拠り所である天竜川、佐鳴湖など、浜松では数多くの生物を観察できます【図4】

はままつ環境ウォール
【図4】はままつ環境ウォール

 それぞれの環境には、その場所に適応した特有の動植物たちが生息しています。つまり、多様な環境が存在する浜松には、それだけたくさんの生物種が生息することができるのです。