わたしにとっての文具【刷る】:活版印刷工・大杉 晃弘さん

浜松科学館 春の企画展「わたしにとっての文具展」。
「書く・描く」「画く+測る」「切る+貼る」「刷る」「綴じる」「彩る」の動作に分けて文具を紹介しています。合わせて、それぞれの項目で、浜松周辺で活動されているクリエイターの方々をたずね、使用されている文具や道具について伺いました。

今回は「刷る」…活版印刷工・大杉 晃弘氏です。

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大杉さんの名刺に触れると指先にデコボコを感じる。活版で印刷されたものだ。
活版印刷という言葉を知っている人はどのくらいいるだろう。活版印刷は1800年代後半に日本に普及してから1900年代半ばまで一般的な印刷方法だったけれど、今ではかなり希少。

「ちょっとやってみましょうか?」と、テキン(テフート)と呼ばれる小型の手動活版印刷機を動かしてくれた。上部の円盤状プレートにチョンチョンとインクを乗せてレバーを上下させると、ローラーが動いてインクがまんべんなく延ばされる。版と紙をセットして再びレバーをおろすと、今度は凸部分にインクのついた版が紙に押しつけられて文字が刻印される。「紙にグイッと食い込む感触がなんとも気持ちがいいんです」。金属製の活字から『は・ま・ま・つ・か・が・く・か・ん』の文字を文選箱の中に一文字ずつ拾い出し、樹脂で作ったイラストと合わせて金属盤の上にレイアウトしていく。

1枚刷るごとに、文字が水平垂直に並んでいるか、インクがかすれていないかを、方眼定規や縞見ルーペでチェック。微妙な位置や圧のかけ具合を調整しながら何度も試し刷りをしてやっと本刷りとなる。金属やガラスなど、インクをはじいてしまったり印刷機にセットできないもの以外なら、基本的に印刷可能なので、和紙やボール紙、皮革、コルク板などに刷ることもある。

印刷部分が凹んでいたり、時にはインクがかすれていたり。これが活版印刷の特徴だけれど、「昔は、いかに平滑に刷ることができるかで職人の力量が試されたんです。でも今は逆にこの凹凸が好まれます。スマホやパソコンで文字を入力して、ボタンひとつでプリントするのが当たり前の時代。身体性が希薄になりつつあるから、逆にこの手触りが新鮮なんでしょうね」。

  • 小型の活版印刷機。大阪でこの技術を学んだ大杉さんはテキンと呼ぶが、浜松あたりでは通称テフート。上部のプレートにインクを塗り、中央左に紙、右に版をセット。
  • 昔ながらの鋳物の活字。ちなみにパソコン用語で書体を表すフォントの語源は、英語のfound (鋳造する)、founding (活字鋳造)。
  • 名刺1枚刷るにも使う紙によってずいぶん表情が変わる。凹みが大きく出るものが人気。

  • 薄い金属プレートを何枚も使って、0.1ミリ単位で版の位置を調整。ぴったりと位置が決まったらジャッキで締めて固定。
  • 真鍮製の金属板と樹脂板。ここにインクをつけて刷る。
  • 活版印刷用のインクとヘラ。色と色と混ぜ合わせれば好みの色を作ることができる。ちなみに、多色刷りする場合は色ごとに別の版を作り、印刷を重ねていく。

大杉 晃弘

1975年浜松市生まれ。活版印刷工。コピーライター。情報誌の制作を経て2013年浜松へUターン。『写真と、企み』代表。
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撮影・取材 安池真美(浜松百撰)

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