夜の科学館:科学で見る嘘

浜松科学館では月に一度(毎週第2金曜日)、高校生以上を対象に「夜の科学館」を開催しています。開館時間を延長し、常設展をご覧いただけることに加え、毎月異なるテーマでプラネタリウムやサイエンスショーなどを実施しています。「大人がワクワクする科学館」を目指した、昼間より一歩踏み込んだ内容のプログラムとなっています。本ブログでは、科学館ならではの切り口で毎月のテーマと科学の関わりを紹介します。

4月のテーマ『嘘』

4月1日はエイプリルフール、嘘をついても許されるという風習があります。SNS上でも、さまざまな企業が架空の商品を発売したり、アカウント名を変えたりと、エイプリルフールを楽しんでいました。嘘には、人を楽しませるものもあれば、騙したり、がっかりさせるものもあります。科学の視点で、さまざまな「嘘」の真実を見てみましょう。

〇特別投影「大人のための宇宙のウソ・ホント」

宇宙開発を語るうえで印象的なシーンといえば、アポロ11号の人類初の月面着陸ではないでしょうか。しかしこの出来事が嘘であると主張する人々もいます。「人類は月に行っていない説」が、たびたび物議を醸します。結果から申しますと、人類が月に行ったのは本当です。
月に行っていないとする人々はこの写真を見て、
「月は大気がないから昼間でも空が暗い。そのため星が見えていないとおかしい」と言います。

確かに、空が暗ければ星が見えていてもいいはずです。ではなぜ写真に写っていないのでしょうか。これはカメラや目の性質によるものです。この写真は太陽が出ている昼間に撮られたものです。そして、月には大気がないため、太陽の強い光が照り付け、月面は非常に明るいです。一方、空の星は暗い点です。月面の様子が分かるように撮影するにはカメラに入ってくる光の量を減らす必要があります(「シャッタースピードを早くする」「露光時間を短くする」といった表現をします)。したがって、暗い光の点である星はカメラに入る光の量が足りないため、写真には写らないのです。このように、被写体の明るさに極端な差があると一方は写真に写り、一方は写らないということになります。

©NASA

また、人間の目も、明るいところでは光の量を減らす働きをします(「瞳孔が小さくなる」)。加えて、宇宙飛行士が着ている宇宙服の顔面部分は、太陽や月面の強い光を抑えるためにサングラスのようになっています。このため、昼間の月面から肉眼で星を見るということも難しいのです。

これらを踏まえると、昼間月面から撮った写真に、月面も星も一緒にくっきり写ることはありえないということです。

他にも、宇宙人はいるのか?
隕石が衝突して地球が滅亡するのか?
など嘘か真かを問う話題が宇宙にはたくさんあります。そんなところも宇宙の魅力だと思います。

〇特別サイエンスショー「ウソのサイエンス」

「科学のうそ」
皆さんは、ポップコーンを作ったことがありますか?
ポップコーンは爆裂種という種類のトウモロコシを使います。作り方ですが、お鍋やフライパンに油を引いて、トウモロコシを入れてフタをして温めます。温めるとトウモロコシの中に残った水分が蒸発し、殻を破って一気に外に出ようとしてポップコーンが出来上がります。でも、わざわざお鍋を用意して、温めるのは面倒くさい、そう思われる方もいらっしゃいますよね。
今回は、とても簡単にポップコーンを作る方法をご紹介しましょう。

作り方はこちらをご覧ください。

どうです?簡単でしょう。皆さんもためしてみて・・・・・・
ちょっと待ってください。どう考えても怪しいですね。これは、科学マジックの1つです。
種明かしはこちらです。

原理ですが、比重の違いを利用しています。コップを振ることで、重いトウモロコシが沈み、軽いポップコーンが浮かんできます。地震の際、地中から土管などが地上に飛び出してくる現象です。
科学マジックは人を楽しませる「科学の嘘」です。エンターテインメントとしては、嘘も面白く、理解してもらえます。ところが、他の場面ではどうでしょうか。例えば、「どんな病気でも治せる薬を開発した」のように、科学者が嘘の科学を紹介してしまうと、ときに混乱を引き起こしてしまいます。
昔は信じられていたことが、時代とともに変わってくるということもあります。例えば、紀元前150年頃にプトレマイオスが提唱した「天動説」です。当時は、地球の周りを惑星や恒星が回っていると考えられ、人々も疑問に思うことはありませんでした。ところが、16世紀になって、コペルニクスによって地球が太陽の周りを回っているという「地動説」が提唱されました。観測技術の向上や科学の進歩によって、今では地動説が正しいことがわかっています。
では、天動説は嘘だったかと言われるとそうとも言い切れません。当時は、科学的根拠があり、真実だと考えられていました。科学が進歩するにつれ、それぞれの時代によって変化していくのも科学の面白さの1つかもしれません。

〇展示解説「錯覚」

下の写真の2匹のトンボをご覧下さい。トンボの胴体、左右どちらの方が長く見えますか?

左のトンボの胴体の方が長く見えるのではないでしょうか。しかし実際は、2匹のトンボはまったく同じ大きさです。
私たちは、見たり聞いたりした情報について、実際とは違った認識をしてしまうことがあります。これを「錯覚」といいます。真実なのに「嘘」のように感じてしまう現象とも言えますね。なかでも、視覚による錯覚は「錯視」と呼ばれています。私たちの目が光を受け、その情報が脳で処理される際に引き起こされます。
光ゾーンには、このような錯視を体験できる「視覚のふしぎ」という展示物があります。ここには、数理的に錯視を研究されている明治大学の杉原厚吉先生の作品が並べられています。

最初に紹介したトンボの絵は、「シェパード錯視」といわれる錯視を元にした作品です。私たちは普段、3次元の世界に住んでおり、立体的に描かれた絵を見ると自然と奥行きを感じてしまうため、長さが違って見えるようです。
では、明らかな立体物が描かれている絵でも錯視は起こるのでしょうか?
下の図形は、「ペンローズの階段」と呼ばれる不可能図形です。

無限に階段を上って行けるように見えませんか? 実際、こんな階段はありえません。
しかし、私たちは、実現不可能な図形であっても、あたかも存在するかのように見えてしまいます。
果たして、このような立体物を実現することは本当にできないのでしょうか。実は、作れる場合もあります。それが次の写真です。

不可能なはずの無限階段ができてしまっているように見えます。しかし実際はそんなわけはなく、横から見ると、階段の角度が斜めになっています。

ある方向から見たときにだけ、階段が続いていくように見えるのです。
どうやら私たちは、斜めになった段差でもある方向からだと直角になっていると錯覚し、無限に階段が続いていくように見えてしまうようです。
さらに、鏡に映った立体物でも錯覚を起こす場合があります。
実際の形と鏡に映った形を見比べてみてください。

手前の矢印は右を向いていますが、鏡に映った矢印は左を向いています。何かおかしくありませんか? 例えば、鏡の前に立って指で右を指差すと、鏡に映った指も右を指差すはずです。
次は、円柱が鏡に映すと四角柱になっています。

よく見ると、矢印や丸い筒の断面は波打つようにゆがんでいます。筒の断面をカーブさせて見る方向によって形が変わるようにし、鏡に映ったときの見え方が変化するように作られています。
私たちは、筒の断面がまっすぐになっているはずだと錯覚しやすく、不思議に感じてしまうというわけです。人間の脳の特徴を逆手に取ったおもしろい作品ですね。

私たちの脳は平面に限らず、立体的なものでも様々な錯視を引き起こします。私たちの脳がいかにだまされやすいかがわかります。しかし、錯視の仕組みはまだまだわからないことばかりです。どうして、機械には起こらない錯視が私たちには起こるのでしょうか?人類が地球上で生き残っていくために進化の過程で獲得した脳の特徴なのでしょうか。「嘘」のように感じてしまう錯覚の世界も奥深そうです。

〇でんけんラボ「これってアリ?」

「嘘」をついているわけではありませんが、生き物には誤解を招きやすい和名が付けられていることがあります。また、見た目を別の生物種に似せて擬態する生き物もいます。
今回は科学館周辺で採集した「アリっぽい生き物たち」を観察することで、これらの誤解を解いていきましょう。

下に並べたアリに見える3種類の生き物たち。
この中でどの個体がアリでしょうか?

アリとは、分類学的に「昆虫綱ハチ目アリ科」に属する生き物を指します。
まずは、「アリっぽい生き物たち」が「昆虫綱」に属するかチェックしてみましょう。

昆虫綱の特徴は、身体が3つに分かれ、脚が6本あること。
観察すると、1匹だけ身体が2つ、脚が8本の生き物がいました。

脚が8本の生き物

なんと!アリかと思った生き物は昆虫ですらなかったのですね。
この特徴をもつ生き物にクモ綱がいます。

身体2つ、脚8本。これはクモ綱の特徴

図鑑で調べると本種は「アリグモ」であることが分かりました。アリグモが含まれるアリグモ属というグループは、どの種もアリそっくりな形態をしています。
写真で見るとこんな感じ。

アリグモ属の一種ヤガタアリグモ

余分な1対の脚をアリの触角のように見立てています。
さらに白色の切れ目の線を描くことで、2つに分かれている身体を3つに分かれて見えるように工夫しています。見事な擬態です。

次に、アリ科の特徴をチェックしましょう。
それは、「腹柄節:(腹部の一部が大きくなったコブ状のもの)」があることです。
観察すると、アリグモを除いた「アリっぽい生き物たち」の中で、腹柄節をもつ個体と、もたない個体がそれぞれ1匹ずついました。

腹柄節(白色矢印)をもつ個体
腹柄節をもたない個体(白色矢印)

腹柄節をもたない個体をよく見ると、小さな顎、13節以上の棍棒状の触角で、画像には映っていませんがお尻に2本の突起がありました。この特徴をもつ昆虫はゴキブリ目シロアリ科。図鑑で調べると「ヤマトシロアリ」と分かりました。

腹柄節が1つあった個体は、昆虫綱ハチ目アリ科クロヤマアリでした。

アリはハチ目、シロアリはゴキブリ目に属します。
アリとシロアリは似て非なる生き物なのですね。

和名はそっくりでも分類学上は全く異なるグループであることが多々あります。例えば「カゲロウ」と「ウスバカゲロウ」。それぞれカゲロウ目とアミメカゲロウ目に属し、昆虫綱の中で両者は遠縁です。カゲロウは成虫期が数時間から数日と短命な種が多い一方で、ウスバカゲロウはより長く生きます。

生き物を理解するためには、その生き物が分類学的にどのグループに属するのか、そしてグループを定義づける特徴や、グループ間の関係性を知ることも大切なのですね。

科学の視点を持っていると、嘘に振り回されずに、楽しむことができるのではないでしょうか。このほかにも、ミニワークショップ「鉛筆が消える?!トリックレンズ」の実施や、ミュージアムショップで嘘に関連するグッズの販売を行いました。




イベント名:夜の科学館
開催日:2024年4月12日(金) 毎月第2金曜日